
- 論証のひとつ
ヘンペルのカラスとは、物事を対偶論法によって解決する際に生じる疑問をカラスを用いた例え話を使って説明したものです。
「なんのことだ?」と混乱するかもしれませんが、ひとつずつ解説していきたいと思います。
- 対偶
対偶とは、「AならばBである」という定義の反対「BでないならAでない」の定義を指します。
たとえば「三角形は3つの角からできている」という定義があります。
これは「3つの角がなければ三角形でない」と同じことです。
4つの角があればそれは四角形ですし、5つの角があれば五角形というものです。
四角形も五角形も、当然「三角形」ではありませんよね。これが対偶と言われる理論です。
ヘンペルのカラスも同じ対偶の理論です。
「カラスは黒い」ということを証明するは、
その対偶である「世の中に存在するすべての黒くないものはカラスでない」を証明すれば成り立ちます。
世の中の黒くないものを全部調べ、その中にカラスがなければ対偶の証明によって「カラスが黒い」ということが成り立ちます。
- 調べてみた
ということで、「黒くないものはカラスでない」を証明するため、
世界中の学者たちは世の中すべての黒くないものを調べることにしました。
ちなみに黒いものがカラスか海苔かゴマかイカスミかということは関係ないので調べる必要はありません。
そして、黒くないものの中にカラスがいないということを確認し、かくして「黒くないものはカラスでない」ということを証明しました。
対偶の証明によって「カラスは黒い」ということも成り立ったので、「カラスは黒い」ということが証明されました。
お気づきでしょうか。
カラスを1羽も調べることなく、「カラスは黒い」ということを証明しているということに。
「カラスが黒いってことを調べるのに、どうして肝心のカラスでなく、カラスじゃないものを調べているの?」という素朴な疑問に行き当たると思います。
対偶がどうとか難しいことなんてわからない私たちには「おかしくないか?」と思うことでしょう。
そうであるのに、対偶論法を当てはめるとこんな疑問点など無視して「カラスは黒いことが証明された」となってしまっているのです。
- おかしい点
この理論をおかしいと思ってしまう原因はいくつかあります。
ひとつは、「世の中すべての黒くないものを調べた」という無理難題を達成しているという点にあります。
生物から物体、化学物質あらゆるものをすべて調べるという不可能をなしています。
もうひとつは、たとえばアルビノ種のカラスなど、黒くないカラスという存在は実在しています。
そういった存在を考えれば、「黒くないものはカラスでない」という理論は間違っているわけです。
このギャップが私たちに違和感を感じさせている原因です。
ヘンペルのカラスは、対偶論法が生み出す現実との差異を指摘したものです。
もっとも、フィクションで引用される時は「AはBであるということは、BでないものはAでない」という対偶論法のたとえとして用いられることが多く、
ヘンペルのカラスの本質である対偶論法と現実の差異については無視されることが多いです。