
- トロッコ問題
トロッコ問題とは、倫理学の哲学のひとつです。
倫理的な内容を議論する道徳心理学に分類されている問題です。
人間がどのように道徳的なジレンマを解決するかという議題として登場します。
- 道徳心理学
道徳心理学とは、道徳的な心理に対する哲学です。
「対立する物事に板挟みにされた時、どうやって解決するのか?」ということを論ずるものです。
そもそも道徳とは何でしょうか。
道徳とは、規則と規範が合わさったものといわれています。
と、言われてもよくわからないので、具体的に説明していきましょう。
規則とは、いわば法律です。
殺人や窃盗など、正義や幸福に関する絶対的なルールのことです。
このルールはどの社会でも変わりません。
殺人や窃盗が許される国なんてありませんからね。
では規範とは、社会(コミュニティ)の慣習や伝統によって大きく変わるルールのことです。
人を呼び捨てにするなだとか、信号は手を挙げて渡りましょうとか
「法律でどうこう言われていないがそうするのが望ましい」というようなものを規範といいます。
そして、規則と規範が合わさったものが、道徳とされています。
トロッコ問題はその道徳に対する問題です。
- 轢かれる人数
では具体的に、トロッコ問題とはどのような問題でしょうか。
まず前提として、
・線路があり、制御不能となったトロッコが走っている。
・このまま真っ直ぐ走れば線路上にいる5人が轢かれて死んでしまう。
・しかし線路の分岐を切り替え、トロッコを別路線に引き込めば5人は助かる。
・だが、別路線の先にも作業員が1人おり、トロッコを別路線に引き込めばその1人が死ぬ。
・この問題を読んでいるあなたは線路の分岐を切り替えるスイッチの前に立っている。
という状況です。
あなたは5人の命を救うため、1人を犠牲にするべきでしょうか?
というのがトロッコ問題です。
この時、法的な責任どうこうは関係なく、道徳的な見解だけが議題です。
5人の命を救うために1人を犠牲にするのは「許される」のか「許されない」のかを問うています。
- 派生問題
他にも、このトロッコ問題から派生した問題があります。
・線路があり、制御不能となったトロッコが走っている。
・このまま真っ直ぐ走れば線路上にいる5人が轢かれて死んでしまう。
という部分は同じです。しかし条件が変わるのはここからで、
・この問題を読んでいるあなたは橋の上におり、あなたの隣には作業員が1人いる。
・この作業員を橋の上から突き落とし線路の上に落とせば、トロッコは止まり5人は助かる。
しかし突き落とされた作業員は死んでしまう。
という条件になります。
線路の分岐を切り替えて別路線に引き込むくだりはありません。
さて、あなたの5人を救うため、作業員を突き落として犠牲にするべきでしょうか?
- 合理的か、非情的か
多くの人が「5人を助けるために線路の分岐を切り替え、1人を殺すのは許される」と答えます。
しかし派生問題に対しては「5人を助けるために作業員を突き落とすのは許されない」と答えています。
どちらも「5人を助けるために1人を犠牲にする」ということは変わりません。
それでも前者と後者に許される、許されないの差が出てきてしまいます。
それはなぜでしょうか。
その答えは、自分の手で直接他者を殺してしまうか否かにあります。
前者の質問に対しては、あくまで行動自体は「線路の切り替え」であり、
犠牲となった1人に直接手を下したわけではありません。
そうなると結果を承知の上でやったことだとしても、自分が直接やったわけではないため、心理的な抵抗が小さいのです。
一方後者では、「橋の上から突き落とす」という直接的な行動が必要であり、心理的な抵抗が大きいのです。
- どうするべきか
トロッコ問題は非常に難しい問題であり、正解はありません。
緊急避難や正当防衛といったように、「他にどうしようもなかったから仕方ない」と許すような法律はありません。
だからこそ、どうするのか。
この問題が提唱された1950年代から現代に至るまで、トロッコ問題は議論されています。
果たして、どうなんでしょうか?