
- 概要
世界5分前仮説とは、哲学における懐疑主義的な思考実験のひとつです。
懐疑主義とは、基本的な原則や認識に対して、「本当にそうなのか?」と検証する学問です。
私たちは太陽が東から西へ移動することを知っていますが、
「何で東から西へ動くのか?そもそも東、西とはなんだ?」というようなことを検証するのが懐疑主義です。
もうちょっとわかりやすく言うと、小さな子供が「なんで?」と質問攻めにしてきたりするようなものです。
- 世界はいつできたのか
世界5分前仮説というのは哲学者ラッセルが唱えた仮説で、
その内容は「世界がたった5分前にできたものである」というものです。
これを読んでいる読者の皆さまは「そんなはずはない、
5分以上前の記憶だってあるし昨日の夕飯だって思い出せる。
そもそも地球の誕生は何億年前に云々」と思うことでしょう。
しかしラッセルさんにかかれば、「それもすべて知識や記憶として植え付けられたものである」と言われてしまうのです。
はじめから知識や記憶をあらかじめインプットされた状態で、私たちは生み出されたのです。
- それはまるで漫画やゲームのように
この説は、漫画やゲームのようだといえます。
たとえば、童話「桃太郎」では「昔々あるところにおじいさんとおばあさんが…」で始まります。
この時、「子供のいない老夫婦」という存在がぱっと生まれるわけです。
「長く子供がおらず、山と川に囲まれた自然の中でつつましく生活している」
という設定が与えられた状態で物語(おじいさんとおばあさんの人生)が始まります。
桃太郎の話をおじいさんとおばあさんの誕生や、ましてや地球創造から始めませんよね?
「そういうもの」として設定し、「そういう設定のキャラクターがいます」で始まります。
これが世界5分前仮説というものです。
- 論破できるか
そしてラッセルさんは、世界が5分前にできたというこの主張を破ることは不可能であるとも言っています。
なぜなら、それを否定できる材料はないからです。
「今までの記憶があるからこの仮説は間違いだ!」という反論は、
「その記憶をインプットされた状態で5分前に生まれた」と論破されてしまいます。
「タイマーで5分以上測ればいい」というのも「ある程度時間が経過した状態のタイマーが5分前に作られた」と論破されてしまいます。
「はい、これを読んでいる間に5分経ったよ」と思った読者の皆様。
それもまた「記事を現在進行形で読んでいるという記憶を植え付けられた状態で生まれた」という反論で論破できてしまいます。
どんな反論をしようとも、「それもそういうふうに感じるように5分前に作られたんだよ」で完封できる無敵の理論です。
- 知識とは? 記憶とは?
ラッセルさんはなにも無敵の理論で相手を論破したいだけではありません。
この仮説をもって「知識や記憶とはなんなのか?」を問いたいのがラッセルさんの主張です。
「過去は確かにあった」という証明ができないので、「知識とは?記憶とは?」という深い問いにつながります。
私たちは本当にきちんと過去や歴史を持って生まれてきたのでしょうか?
それとも、「そういうものである」としてたった5分前に作られたものでしょうか?
記憶とは、知識とはいったいなんでしょうか?
分かりやすい