
- 飛んでいる矢は止まっている
これは、古代ギリシャの哲学者ゼノンが提唱したパラドックスのうちのひとつです。
ゼノンは物や生物の運動についてのパラドックスを多く残していて、
これはそのうちの「運動のパラドックス」という中に記されたものです。
- 運動と静止
ゼノンは運動のパラドックスの中で
「目的点の半分の点まで到着するには、その前の半分の半分に着いていなければならない。
さらにその前の半分にも同様、と限りなく先に着いているべき点があり、一歩も進まない」と説いています。
その例として矢を用い、「飛んでいる矢は止まっている」という結論を出しました。
放たれた矢が1メートルを飛ぶためには、その半分である50センチの地点に到達しなければなりません。
ではその50センチの地点に到達するためには、その半分である25センチの部分に到達しなければなりません。
25センチの地点に到達するためには……と続けていくと25センチは12.5センチになり、
6.25センチになり、3.125センチになり…最終的には0.0000000…ミリとなります。
もうここまでマクロな世界になるとはじめから動いていないも同然です。
よって、飛んでいる矢は止まっているということになるのです。
わかりにくいでしょうか? 試しに矢の動線を書いてみるとわかるかもしれません。
1本の直線を引き、これを矢の動線とします。これを半分に、さらに半分にしていってみてください。
そのうち点になると思います。線は点が横に動いたものだとされているので、
線でない=点の運動がない=止まっているということになります。
線を引くためにペンを置いたそこから動いていないというような状態を想像してみると
「線は点が動いたものである」というのがわかるかと思います。
- 後進と前進
この「飛んでいる矢は止まっている」という理論は運動のパラドックスのうち、後退型解釈に分類されるものです。
ある地点からひたすら距離や時間を半分にしていって最終的に「動いていない」という結論に至る方法です。
逆に「目標地点の半分に到達したとしても、この先の半分を進まねばならない。
そこに至るためにはそのさらに半分の…」と到達地点を限りなく先にすることで最終的に到達できない状態を作り出し、
結果的に「動いていない」という結論に至る方法を前進型解釈といいます。
前進型解釈の代表は「アキレスと亀」というパラドックスです。
そちらについては別の記事で解説しているので、そちらを参考にしてみてください。